イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
『一緒についてきてくれたら、これをあげるよ』

『え、本当!?』

『うん、本当だよ。じゃあ、手をつなごっか』


私は男の人に手を引かれて歩く。

はたから見たら、親子にしか見えなかったと思う。

だけど、段々と人気のない線路沿いの道に連れていかれて、私は足を止める。


『おじさん、どこまで行くの? 私、あまり遠くには行っちゃいけないってお父さんとお母さんに言われてるの』

『……うるさいガキだな』

『え?』

『もうお父さんとお母さんのところには、帰れないんだよ。お嬢ちゃん』


そう言って私を見た男の人は、不気味な笑みを浮かべていた。


こ、怖い……!

逃げようと思ったのだけれど、つないでしまった手を強く握られる。


『い、痛いっ……離して!』

骨が折れちゃうよ!

『誰か助けてー!』


声が枯れるほど叫んだけれど、私は誰にも気づいてもらえず、そこから引きずられるようにして、コンクリートでできた地下室に連れていかれた。


『誰かっ、お父さん、お母さん!』


手足を縛られて閉じ込められた私は、何度も助けを求める。

けれども、数日経ってもその誘拐犯以外の人間が姿を現すことはなかった。

一生、ここにいなきゃいけないのかな。

お腹も空いて、身体に力が入らない。

もう嫌だよ。

もう疲れたよ。

次第に助けを呼ぶ気力もなくなって、私は深い絶望のなかで眠ることが多くなった。



『お前の両親に電話したぞ。あの様子だと、お前がいればいくらでも金を貢いでくれそうだ』


ニヤニヤと笑う犯人に、涙が出る。

ごめんね。
お父さん、お母さん……。

疲れてなにも感じなくなっていた心に痛みが走る。
そのあと、飲まず食わずで監禁されていた私が発見されたのは1週間が経ってからだった。


***

……そうだ、どうして忘れてたんだろう。

失っていた幼い頃の記憶を思い出した私は、カタカタと震えだす自分の身体をぎゅっと抱きしめる。


「……っ、はぁ」


なんだか、息苦しい。

そっか、ここがあの地下室に似てるからだ。


『もうお父さんとお母さんのところには、帰れないんだよ。お嬢ちゃん』

あのときの光景と犯人の声がフラッシュバックする。

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