イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「お前っ」


私と同じくびしょ濡れの剣ちゃんがいた。

物凄い剣幕で話しかけてきたので、怒鳴られると思った私はぎゅっと目をつぶる。

けれども、耳に届いたのは思いのほか優しい声。


「無事で……ほんと、よかった……」

ずるずるとその場にしゃがみ込む剣ちゃんに、私は慌てて腰を落とした。


「剣ちゃん!? なんでここに?」


鞄からハンカチを取り出すと、私は剣ちゃんの頬や濡れた髪をふいてあげる。

しばらくされるがままだった剣ちゃんは、ふいに私の手首をガシッと掴んだ。


「あんなふうに乱暴にして、本当に悪かった。でもな、頼むからひとりになるな。お前になにかあったら、俺の心臓が止まるだろうが」

「うん……うんっ、心配かけてごめんね」


どれだけ心配してくれたのかがわかって、私は手首に触れている剣ちゃんの手に自分の手を重ねた。


「いや、もとはといえば俺が悪い。怖かっただろ、もうしねぇから。だから、俺をそばに置いてくれ。でないと、守ってやれねぇだろ」

剣ちゃんは人目もはばからず、私の後頭部に手を回すと自分の胸に引き寄せる。

濡れたワイシャツ越しに伝わる剣ちゃんの体温に、心臓が大きく跳ねた。


「返事は?」


どこか所在なさげな剣ちゃんの瞳。

私は安心させるように、首を縦に振る。


「うん、わかった」

「なら、いい」


言葉少なにそう答えた剣ちゃんは、また私を強く抱きしめる。

剣ちゃんが近くて、ドキドキする。

落ち着かなくて身じろぎをすると、それを許さないとばかりに剣ちゃんの腕に力がこもった。

そういえば剣ちゃん、海の中でもこうして抱きしめて守ろうとしてくれたな。 

あのときのことを思い出して、今度は安心感に包まれた。

会ってなにを話そうか、あんなに悩んでたのに、不思議。

こうして剣ちゃんの腕の中にいたら、すべてがどうでもいいことのように思えて……。

私、やっぱり剣ちゃんが好きだな。

自分の気持ちを再確認した私は、その背に腕を回した。
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