イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「俺が紳士でよかったな。俺以外の男だったら、今頃食われてんぞ」

「うーん、紳士?」

「なんだよ、その反応は。俺が紳士だと納得いかねぇってか?」


剣ちゃんは形のいい唇をゆがめると、こっちを見ないままデコピンをしてきた。


「あたっ……」

「白状しやがれ」

「ご、ごめんなさいっ。だって、雅くんに怒ってたときの剣ちゃん、紳士っていうより不良……」

「あ?」

だから、そのすわった目が怖いんだってば!


「嘘です、ごめんなさいっ」

「……ったく、あれは牽制だ、牽制」

「なにに対して?」


そう聞き返すと、剣ちゃんが本気でわかってないのか?と言いたげに私を見る。


「前から鈍い鈍いとは思ってたけどよ。ここまでくると、重症だな」

剣ちゃんはため息混じりにそうこぼして、座っている私におおいかぶさってくる。


「え……」

「俺の女だから近づくなって、雅の野郎に牽制したんだよ。つーか、口でも言ったろ?」


私の濡れた髪の隙間に指を差し込んで、剣ちゃんはもどかしそうにすいてくる。


「あの、剣ちゃん濡れちゃうよ?」


私、まだちゃんと身体も髪もふいてないし……。


「別に俺だって制服濡れてるし、気にならねぇよ。つか、この状況で俺の服の心配かよ」


呆れ気味に見下ろしてくる剣ちゃんの手が、私の首筋を伝う雫をすくい取っていく。


「剣ちゃん、くすぐった……い」

「あ、悪い。つーか、なにしてんだ俺は……」


剣ちゃんは慌てて私の上からどくと、口もと片手でおおいながらそっぽを向く。

自己嫌悪に陥っている様子の剣ちゃんだけれど、顔は真っ赤だ。


「おら、あとは自分でふけ。服もちゃんと着ろよ。さすがにこれ以上は俺も、紳士じゃなくて狼になんぞ」


それだけ言い残して、剣ちゃんはそそくさと脱衣所を出ていってしまった。



お風呂を出たあと、私は剣ちゃんと夕食をとって自分の部屋に戻った。

ベッドに横になって、目を閉じること1時間。
いっこうに眠れる気配がない。


「剣ちゃん、起きてるかな……」

私はネグリジェ姿で剣ちゃんの部屋を訪ねる。

「けーんちゃん、起きてますか?」

声をかけると、扉は開いたものの出迎えてくれた剣ちゃんは鬼の形相をしていた。


「お前は……なんも反省してねぇな」

「ご、ごめんなさいっ」

私は反射的に謝る。

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