イケメン不良くんは、お嬢様を溺愛中。
「お前はっ、かわいすぎんだよ」

「ええっ、あの剣ちゃんが――んんっ!」


かわいいなんて言うなんて!

そんな私の言葉は、剣ちゃんのかすめるようなキスによって、さえぎられた。


「ここっ、外だよ!?」


驚きで口をぱくぱくさせている私に、剣ちゃんはべーっと舌を出す。


「俺はしたくなったらする。覚えとけ」


なんて横暴な……!


「おら、行くぞ」


絶句している私の手を引いて、剣ちゃんが連れてきてくれたのは映画館だった。


「なにか観たい映画あるか?」


剣ちゃんはどれでもよさそうだったので、私は最新作のホラー映画にしようと提案した。

すると、剣ちゃんは視線を泳がせる。


「いいのかよ、これで」

「ん? うん、どうせなら最新作の映画が見たいなって。それにこれ、すごい怖いって話題になってるんだよ」

「あっそ」


さっきとは打って変わって口数が減る剣ちゃん。
心なしか、態度もそっけない。

不思議に思いつつも、私たちは上映スペースに入って席に着いた。

上映が開始して数秒、隣からぐっと息を詰まらせる音が聞こえてくる。


「剣ちゃん?」


小声で話しかけると、暗がりのせいか剣ちゃんの顔色が悪い。

まさか、ホラー苦手なのかな? 

いやでも、あの強い剣ちゃんが?

拳銃とかナイフとか持った男の人たちを前にしても、全然動じていなかったのに?

ま、まさかね。

肘かけに乗っていた剣ちゃんの肘に手を添えると、飛び上がる勢いでビクッと反応した。


「もしかして、こういう映画嫌いだった?」


そう問いかけても返事はない。
でも、確信する。


「怖いなら、怖いって言ってくれたらよかったのに」

「なんの話だか、さっぱりだな」


聞き取れないほどか細い声で答える剣ちゃん。

そんなに怯えてるのに、まるで説得力ない。


「ふふふっ」


ホラー映画を見ているのに、私はつい笑ってしまった。

剣ちゃんはギロリとにらんできたけれど、いつものような鋭さはなく、今は全然怖くない。


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