明治禁断身ごもり婚~駆け落ち懐妊秘夜~

女学校から帰りそのまま家を出たので、海老茶袴に編み上げ靴姿。

銀座に来るなら、もう少しおしゃれをしてくるべきだったかもしれないと後悔したが、一刻も早くと気がせいていたので仕方がない。

明治五年に起こった銀座大火では、この辺り一帯が焼失したという。
しかし、その後は煉瓦街が作られて、舶来品を扱う商店も多数並ぶようになった。

今やすっかり復興を遂げ、日本橋よりも有名な商業地となっている。


「もうまずいわね」


そろそろ麻布の家に戻らなければ。

細い路地奥のお気に入りの和菓子舗『千歳(ちとせ)』で大福を購入した私は、父のワイシャツを片手に人力車をつかまえようと足を踏み出した。

しかし、目の前に突然大男が立ちふさがったので、一歩あとずさる。


「羽振りのいいお嬢さんだね。どこのご令嬢?」


襟元のよれた着物を纏うその男は、右の口角を上げて意味深長な笑みを浮かべる。
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