大雨が降った。私の中では酷いくらいの。
雨は好き。音も匂いも全部。
でもあの人は嫌いだといつも言う。

「雨だね。」
それは突然だった。そう言ってその人は私の横を歩いた。男子らしい黒の無地の傘に、雨が音を立てて打ち付けている。隣のクラスの坂下海璃(さかしたかいり)。その人と同じクラスの友達がカッコイイと言っていたのを思い出した。顔をマジマジと見る私に何?とでも言うような顔を向けてきた。確かにカッコイイと思う。多分。
「そうだね。おはよう。」
ちゃんと話したことは無いけれど、一応挨拶した。
「おはよう。藤野さん。」
低い声で名前を呼ばれちょっと驚いた。海璃くんが私の名前を知っているとは思わなかった。驚く私を見て、海璃くんは不安げな表情になった。
「ごめん。違った?藤野南(ふじのみなみ)だよね?名前。」
「うん。そうだよ。いや、海璃くんが知ってるとは思わなくて、ちょっとびっくりしただけだから大丈夫。ごめん。」
海璃くんは良かったと言いながら笑った。
なんか分からないけれどドキっとした気がしなくもなかった。
学校がもう目の前になった時、今までの何気ない会話をやめ、170くらいの身長を折り曲げ、150くらいの私の視線に合わせた。
「ねぇ、南って呼び捨てダメ?ちゃんと話したの今日が初めてだけど、また藤野さんと話したいし…」
「いいよ。南も海璃くんと話したい。楽しかったもん。あ、南も海璃って呼んでいい?」
「嬉しい!!いいよ全然、むしろそう呼んで。」
「ほんと!!ありがとう。」
「てかさ、南、一人称南なんだね。」
「あ、うん。変?」
「いや、いいよ思う。フツーに。」
「なら良かった。」
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