月夜に笑った悪魔
変わる季節


「助けてくれてありがとう……美鈴」


次の日の晴れた朝。
一条組の家へと帰れば、すぐに居間で芽依に会って頭を下げられた。


はじめて名前で呼ばれた。
ずっと“おばさん”と呼ばれていたのに。


「気にしないで……!私は大丈夫だから!手のコレだってぜんぜん痛くないし!」


コレ、というのはナイフをつかんだ時に切れた傷のこと。
昨夜と今日の朝もちゃんと消毒して、包帯を巻いている。


にこりと笑うと芽依はゆっくり顔を上げて。
「……ほんと?」と小さく聞いてくる。


「ほんとほんと!」


調子に乗ってパチパチと手を叩くが、思ったより痛い。
思わず顔を歪めると、芽依はさらに心配そうな表情に。


「いや、本当に大丈夫だからね!気にしないで!ね!」


必死に笑顔で返す。


これは芽依が気にするようなケガじゃない。
私が自分から囮になってつくった傷だから。


「芽依……美鈴にいっぱい悪いことした。ごめんなさい」


もう一度、深く頭を下げる彼女。


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