今夜、桜の木の下
ここまで叫ぶ元気があるのは手術が終わって2週間がたったから



しばらく寝たきりで動けなかったけど、首の捻挫はすっかり良くなって少しずつ動けるようになってきた


「いったぁぁぁあ!!」


またまた私の叫び声が病室いっぱいに響き渡る


「だーかーらー!千夜!うるさいって!」


ママは私の方を一切見ないで怒る

(だってこの看護師さん針変えるの下手くそすぎだよ!?)

ママに口パクで何回も伝えても、全然気づいてくれないし、まず全然こっち見ないし

多分この人は新人さんなんだろうな
だってこんな痛い点滴の交換初めて


「もう私死ぬんだろうなぁ」


なんて言ってみれば見てくれるかなーなんて
痛すぎて言ってみる
ちらっとバレないように横目でママを見た


「何物騒な事言ってるの、たかが点滴でしょ?治すために必要なのよ?これくらい我慢しなさいよ」

はい、見ない
ぜんっぜん私を見ない


ママは動きを止めない…ロボットみたいに


「いやいやいやママ?私病院なんか滅多に行かないんだよ?採血の針の太さ私一生忘れないわぁ」


新人の看護師さんがバツが悪そうに私の顔色をちらちら確認するし
逆に私も気まずい



「いや、千夜ちゃんごめんね?
なっかなか入らないんだよねー……あ!ここかな?」


明らかに探ってますよねそれって言いたくなるくらい探してる
うわうわまただよそれはちょっとやめて……


「えっ、ちょっとそんなぐりぐりしな……」


ブスッ


「いっったぁぁぁぁあ!!!」


大部屋の中に私の叫び声が響く
幸い私の周りには誰も入院してない


「ごめんっ!ごめんね?別の人呼んでくるね」


看護師さんは申し訳なさそうに何度も私に謝ってダッシュで病室から出て行った



看護師さんが出て行ったのを見てママは
私の方にやっと振り返って大きくため息をついた


なんで出てったら見るの
そんなに周りの目が気になる?
私にはそれが全然理解できない


あぁまたこの顔だ呆れ切った顔


「…はぁ、元気なのは分かったから
早く治しなさいよ、ママがいる時以外病院出歩かないでよ?分かった?あんまり心配させないで」


この棘のある言い方いつもと一緒
ママは私が大怪我をしたから
本当は精神不安定で苛立ちを隠せない
だから顔に出てる
私を睨みつける


「…はーい」


私はその目を見れなくて顔を見ないで返事をした



昨日こっそり売店に1人でお菓子を買いに行った時、車椅子になれてなかった私は転んで頭打って脳震盪を起こした



昨日のことはお互い触れないようにしてる
暗黙の了解っていうのかな
それにママは私に目を合わせないしね



そのまましばらく寝続けて、目を覚ました時
私はベットに寝ていて、ママは病室にいなかった
私はゆっくり起き上がってぼーっとしていた


病室のドアがゆっくり開いて
私は静まり返った病室で何となく動いたドアを見た、後悔した。 ママは花瓶の水を替えていたのか、私が起きてるのに気づいてものすごい形相で走ってきて手に持っていた花瓶を割れるんじゃないかってくらいの勢いで私のベットの横の机に置いて



パンッ


私を思いっきり叩いた




しばらく頬に手を当てて放心したのを覚えている
私はどうすればいいんだろうか、すぐに謝れば良かったんだろうか、それだけが頭の中でぐるぐる回り続けた


「どうしてそんなに心配させるの!?
いい加減にしなさいよ!?少し大人しくすることも出来ないの?心配で仕事にも行けないでしょ!?ちよが大人しくすれば済む話でしょ!?…頼むから大人しくしなさいよ!!」


「………ごめんなさい」


悪気があったわけじゃない、ただ謝るしかなかった、だってママが顔を歪めていまにも泣き出しそうな顔をしてたから
反論なんかできるはずもなかった


こっそり行かなければいいじゃんって言う人もいるだろうけど、私はそうはいかなかった
こっそりやらないとどんな自由でも私は与えてもらえない生活を送ってきた
だからこっそり何かするのが私の当たり前になっていた



それにあんなに歪んだ顔私が小さい頃に一度見ただけだったから







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