青の秘密を忘れない
観光名所を回って、私たちは青井君が予約してくれたホテルに到着した。

部屋に入るとツインベッドがくっついた状態で並んでいて、ドキッとする。

青井君は、すぐに私に背を向けて荷物を整理し始めた。
私も自分の荷物を整理して、気持ちを落ち着かせようとする。

「先、お風呂入っていいですよ」と言われ、一緒にいるのが気まずくてすぐにお風呂に向かう。

何もないことは分かっている。
私たちは、この関係が続く間はいわゆる「不貞行為」をしないと決めたから。
だからと言って、許される訳ではないことは分かっているけど。
もしこの状況がばれたとして、誰も信じてくれないだろうけど。
もはや願掛けのようなものだなと思って、私は湯舟に頭まで沈めた。

「出たよ。青井君も入ってきなよ」
「あ、ありがとうございます」

青井君の声はさっきより沈んでいるように聞こえた。
そして、私に見向きもせずに風呂場に向かった。
お風呂を出た後も、さっきとは打って変わって買ってきたコーラを飲んでテレビをつけた。
ベッドに座りながら、バラエティを観て今流行りの芸人のネタに爆笑している。

急に寂しくなって、彼の隣にくっついて座るとすぐに彼が間を空ける。
彼の方を見ると、変わらずテレビを見つめていた。
だんだんと寂しさよりせっかく一緒にいられるのにという苛立ちが募ってくる。
また距離を詰めて、今度は彼の右手を握った。
彼の視線がこちらに向いたのを感じ、私は平静を装ってテレビを見つめる。
内容なんて一つも頭に入って来ない。

少しして彼は私の手をぐっと剥がす。
私はさすがに不安になって彼の方を見ると、鼻と鼻がぶつかった。

「こっちは我慢してるのに、容赦ないですね」

私の言葉を待たずに、彼が私の唇を塞いだ。
彼は私の背中に手を回してベッドに押し倒しながら、片手でテレビのスイッチを切った。

「篠宮さんのせいですからね」

今まで見たことない青井君の切ない表情に、胸が苦しくなると同時にすごい愛しくなった。
私は彼の背中に腕を回して、自分に引き寄せる。
彼は一瞬身体を固くしたが、すぐに私に身を預けた。
「青井君、好きだよ」
「僕もですよ。どんどん篠宮さんのこと好きになってます」
彼の右手が、私の胸に触れて……すぐに鎖骨に移動する。
そして、力強く私の首に口づける。

「どこまでならOKなんだ」と自問自答する吐息が、私の首をくすぐる。
そんな葛藤すら愛しくて、私は泣きそうになる。
そして私の頭に両腕が移動していき、私たちは顔を見合わせてからまた深くキスをした。

ツインベッドの片側に寄って、私たちは寄り添って寝転んだ。
伸びをした私の左薬指にある指輪を、彼がちょんと突いた。
「なんか生々しいな」
そう言って苦笑する彼が見ていられなくて、私は指輪を外してカバンのポケットにしまった。
「いいんですか……?」
「うん、青井君といる時はつけないことにする」
青井君は、私の首元に顔を埋めた。
「離れたくないです」
私はそのまま青井君の方に身体を向け、彼を抱きしめる。
私も、と言いかけて、それを不可能にしているのは私なのだなと思って言葉に詰まる。

答える代わりに強く抱きしめると、彼の穏やかな寝息が聞こえてきた。
私も徐々に色濃くなる眠気に身を委ねて目をつむった。
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