青の秘密を忘れない
第11章 予兆
それから一カ月半程は、帰る予定が立たなかった。

そして、仕事がやはり忙しいようで青井君の連絡頻度が落ちている。
具体的に仕事を知っているだけに、それ自体には不安を感じていなかった。

ただ、前回会った時の青井君の切ない表情が忘れられなかった。
メッセージはいつも通りだったが、やはり顔を見て話したい。
何もできない焦燥感で私は不安が募っていた。

もっと会えるようにするには、余裕があるうちに働きたいと思った。

「私、働きたいんだけどいいかな。
お金は足りてるんだけど、こっちで知り合いもいないし仕事するのもいいかなって」


正臣には、転勤が決まった時に専業主婦を勧められていた。

「ついてきてくれるよね?
今まで仕事頑張ってきたんだからゆっくりしなよ。家事やってくれれば助かるな」

「うん、分かった」と答えながら、自分でも仕事に未練があることは分かっていた。

デスクの整理もできないような私には、専業主婦に向いていない。
家族のために頑張れる人ってすごい、と心から思った。

専業主婦をすると言っていたから正臣はいい顔をしないかも知れないと考えたが、
「そう?いいと思うよ」
と、正臣はあっけらかんと言った。

ああ、この人は私のやることに文句を言わない人だった
と、喜ばしいはずなのに気持ちが重くなるのを感じた。
でも、いい。とりあえず働くことができる。

「でも、パートくらいでいいんじゃないかな」

私を気遣ってくれている、
いずれまた引っ越すことになる、
諸々考えてそれが妥当なことは分かっている。
分かってはいるのだ。

ただ、正しい優しさが、私の首を絞めつけていく気がした。
だから、私は心が死なないように思考をやめて、笑ってそれに同意した。


そして、十月を迎えた。
青井君が『有給取れたんで会いたいです』と連絡をくれた。
私たちはお互いの中間地点で会うことにした。
私は一刻も早く会って、不安を取り除きたかった。
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