青の秘密を忘れない
第12章 すれ違いたくないのに分からなくなる
その翌々日、少し遅めの時間に会うことが分かっていたので、私はカフェでお茶をして待っていた。

『今から行きます』と連絡がきた三十分後に彼がやってくる。

久々に見るスーツ姿に思わずドキッとする。
あんなに毎日見ていたはずなのに。

「ごめんね、仕事忙しいのに」
「いえ、僕も会いたかったので」

そう言って彼は笑った。
ただ、その顔には疲れと言い様のない翳りが見えていた。

「ちょっと元気ない?やっぱり疲れてるよね」

青井君の顔に一瞬『やばい』という色が浮かび、少し悩んでから弱々しく笑った。

彼の前に回り込んで、覗き込むと目を逸らされた。
私は少し不安になって、それを隠すようになるべく穏やかに言葉を続ける。

「どうしたの?何でも言って」

「最近ほんと仕事が大変で、相談なんですけど……」

意外と込み入った業務の相談があって、私たちは道端で立ち止まる。
私がいろいろアドバイスを話してみると、彼はちょっと安心したようだった。

その顔に安堵したのも束の間、青井君が言葉を続ける。

「篠宮さんに言ってみてよかったです。
宮川さんに相談したら、篠宮さんに言うと心配すると思うって言われて」

宮川さん。
その名前に不安が溢れ出す。

「宮川さんには相談してたんだ?」

意図せず、つい少し責めるような口調になってしまう。
青井君の表情が少し堅くなったのが分かった。

「他の社員は基本繁忙で殺気立っていて怖いので話せなくて。
宮川さんは割と手空いてるし、他の皆のこと嫌いみたいなんで話せるなと思ったんですよ。
でもまぁ、これからは篠宮さんに相談します」

私の考えていることを知ってか知らずか、
そう言ってくれたものの青井君の表情は晴れなかった。

「まだ何かあるの?」

「うーん、いや……」

言葉を濁している彼に不安が募る。

「言ってよ」

「まだちょっと考えてるところなので……」

「宮川さんと何かあった?」

青井君が少し目を見開いてこちらを見つめた。
自分でも分かるくらい攻撃的な声だった。


「……宮川さん?何もないですよ。
ねぇ。僕のこと信用してないんですか」

初めて見る青井君の険しい表情に傷付きながらも、余計に憤る。
じゃあ、なんで私が不安なことは分かってくれないの?と思っている自分がいる。

何も言わない方がいい、
言わない方がいい、
そう分かっている。
なのに。

「そういう訳じゃないよ。でも、やっぱり離れてると不安なの。
なんで分かってくれないの?」

青井君の表情がなくなっていくのが分かる。
そして、顔を隠すように額を押さえた。

「不安なのは分かってますよ。でも、離れてるのは篠宮さんの……」

篠宮さんの『せい』だと言いかけたのだと思った。

そう、それは私のせいだ。
彼にもそう言っていたはずなのに、いざそう言われると胸が痛い。

「ごめん」
「いえ、僕もすみません」

青井君が意を決したようにこちらを真っ直ぐ見た。
いつもの優しい眼差しではない。

「本当のこと言いますけど……。
いろいろ現実的なことを考えて、怖くなってきました」

その口調は仕事の相談中よりも堅かった。

「どういう意味?」

自分で声が震えているのが分かった。
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