エリート御曹司と愛され束縛同居
「……わかっているのになんで、こんなに胸が痛いの」


無意識に零れ落ちた声が胸に刺さる。

ざわざわ波打つように揺れる心中の理由は薄々わかっている。

だけどそれを認めるのも突き詰めるのも恐い。

なのにあの人は必死に張り巡らせた予防線を予想外の方法で軽々超えてこようとする。


手の届かない、皆が憧れる王子様。そんな人にこれ以上近づいてどうするの。


女性除けのためにここに住んでいるだけの私が好きになっては、惹かれてはいけない人だ。

言い聞かせるように呟いて再びベッドに潜り込む。

何度も寝返りをうつけど、気持ちの折り合いはつかず、溜め息を吐いた。

どうしようもない将来を願っても意味なんかないのに違う出来事を考えようとしても、先程のキスが頭から離れない。

長いまつ毛に縁どられた綺麗な目、甘く響く低音、包み込むような大きな手、音も感触も鮮明に記憶に蘇って忘れられそうにない。

あの人はこうやって離れていても心を簡単に奪って揺さぶってくる。


仕方なくベッドから慎重に降り、そっと足音を忍ばせて浴室に向かう。

浴室の鏡に映った私の化粧は崩れ、髪は乱れてぐしゃぐしゃだった。

こんな姿を見られてしまった事実に泣きそうになる。

しかもそんな悲惨な状態の私にキスをした真意が益々わからなくなって混乱する。

すべての事柄に目を瞑るように熱いお湯に身をしずめても心の暴走は収まらなかった。
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