エリート御曹司と愛され束縛同居
私の名前は岩瀬澪、新宿に十階建ての本社ビルをかまえる、日向(ひゅうが)不動産株式会社勤続六年目の二十八歳だ。

百五十七センチメートルの身長に面長の輪郭、母によく似ていると言われる垂れ目がちの二重の目が特徴と言えば特徴で、顎の下で切り揃えた焦げ茶色の前下がりの髪は最近切ったばかりだ。

ちなみに六歳年上の既婚者である兄、(なぎ)は父によく似た切れ長の二重の目が特徴的だ。


すでに出勤している社員が多いのでホールはそれほど混雑はしていない。総務課のある五階までエレベーターに乗り、ガラスドアを開ける。

「おはようございます」

挨拶をしてフロアに入るとすぐに課長に声をかけられた。

「ああ、岩瀬さん、おはよう。朝から悪いね。ちょっと話があるんだけど、いいかな?」

四十代半ばの恰幅のよい男性の朋井課長にパテーションで仕切られた簡易応接スペースに促される。白い簡素な机と黄緑色の座面が目立つスタッキングチェアが四脚置かれている。

「はい」

返事をして課長の後ろに続き、勧められるまま向かいの席に座る。

「確認だけど、岩瀬さんは以前から異動を希望していたよね?」

気性が穏やかで部下からの評判も良い課長に落ち着いた声で問われて、頷く。
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