幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

「三波さぁん、たらいまぁ」

 いつもと違う口調で帰ってきた健一郎を見て、私は多少予想していたものの、どうしてよいか戸惑った。

 変な話だが、健一郎は人に隙をあまり見せない。私にも隙を見せているようで見せていないと思う。寝ているところすらほとんど見ないのだ。

 そんな健一郎が
「たらいまーって……」

 そう言って、思わず苦笑する。
 なんだか、ちょっとかわいい。

(子どもみたいだなぁ……)

 次の瞬間、健一郎が、バタンと、玄関に寝転んだ。

(これは困る……)

「ちょ、ベッドで寝なさいってば!」

 風邪ひいちゃう! この季節、医者にとって怖いのは、何より体調不良だ。
 年末から年度末にかけては、研究室の学生の卒論の大詰め、研究発表、自身の学会など、いろいろとてんこ盛りで、医学部教員に体調を崩している暇はない。

 さらに、この時期になると、内科関連の科は特に患者数が増える。いくら体力に自信があろうが、忙しさと診療の中で、体調を崩してしまう医者は少なくないのだ。

(例年の森下先生と本橋教授のげっそり感は忘れられない……)

 肌寒い研究室で眠りこけていた自分のことは棚に上げて、風邪ひくよ! と健一郎に声をかける。しかし健一郎は反応しない。
 私はため息をついて、健一郎を部屋までなんとか連れて行くことを決めた。

< 151 / 227 >

この作品をシェア

pagetop