幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

 小さなときから私の周りはお医者さんや看護師さんばかりだった。
 私はそんな彼らにあこがれて、でも、私自身ができることは何もできなかったのだ。

(いつだって……。今もそうだ)

 そんなことを思って、大学に行ってぼんやり仕事をしていると、昼に入るころ、健一郎がやってきた。

「今朝はありがとうございます」
「私、別に何もしてない」

 私が目をそらすと、健一郎は、いいえ、と言って続けた。

「救急車、呼んでくれたでしょう」
「そんなの当たり前じゃない」
「ああいったとき、とっさに動ける人って、実はあまりいないんですよ」
 そう言って健一郎は私のことを誇らしげに見ている。「さすが三波さんです」

 私はどんな顔をしていいのかわからなくて、ぷいと顔を背ける。そして口を開いた。

「あの女性は? 大丈夫だった?」
「大丈夫でしたよ。そのままチューブで止血して処置は終わりました。あとは元になっていた疾患が回復すれば問題なく退院できると思います」
「……よかった」

 思わず息を吐くと、また健一郎が嬉しそうにこちらを見ている。
 私はそれに居心地悪くなって眉を寄せた。

「なによっ」
「いえ、今朝は一緒に通勤できてうれしかったです」
「あれを一緒に、って言うんじゃないわよ、5メートル離れてたし。途中から健一郎、救急車に乗っていったじゃん」
「三波さんが呼んでくださった救急車だったので格別でした」
「そんなこと考えてたの? 最低! 気持ち悪いっ」

 私が思わず言うと、健一郎は嬉しそうに目を細める。

「と、とにかくはやく仕事に戻りなさいよ! 今夜トムヤムクンとかほかにも私の知らない料理作るんでしょ!」
「そうでした。では、名残惜しいですがここで失礼します」

 健一郎はそういうと、くるりと踵を返して去っていったのだった。私はため息をつく。

(健一郎はどこまで行っても健一郎だ……)

 そうは思うものの、私は健一郎が来る前よりパソコンを打つ手が軽くなっていた。
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