幼馴染でストーカーな彼と結婚したら。

 私はその日、家に帰ってきた健一郎に開口一番、
「ちょっと! 何考えてんのよ! 健一郎が思うようなことはないって! 告白されたのだって昔の話でしょ! 今はいい友達なの! だから絶対に真壁くんに意地悪しないでよ!」
と詰め寄る。健一郎はスーツのジャケットを脱いで、ネクタイを外しながら、

「あちらが三波さんを友達と思っているかどうかなんてわからないでしょう」
と、さらりと言った。その言葉に眉を寄せる。
 健一郎に、私と真壁くんの間のことを口出されたのが、非常に腹が立ったのだ。

「わかるわよ! 私のほうがずっと一緒だったのよ!」

 ホントやだ。泣きたい。というかもう泣いている。「もし真壁くんに無茶な仕事振ったら、大学の『パワハラ対策委員』の先生に投書するからね!」

 そうなったら、絶対に投書してやるんだから。
 真壁くんか健一郎かと聞かれたら、私は間違いなく真壁くんの味方だ。

「三波さんは、あいつの肩ばかり持つんですね」

 着替えるために、ワイシャツのボタンを外しながら、健一郎がつぶやく。
 いつもより低い声だったが、私はそんなことは気にもならなかった。

 ただ、真壁くんのことだけが心配だったのだ。

「当たり前でしょ。友達だもん」
「妬けるな……」
「え……?」

 着替えている途中の健一郎が、突然、私のほうを向いて、私のほうに歩み寄ってくる。
 私は思わず足を引いて、後ろに下がった。何歩か後ずさるとそこに壁があって、私はどうすることもできず、その場に固まる。

 健一郎の顔は真剣だ。いつものあのヘラヘラしている顔とは全然違う。患者さんを前にした顔とも少し違った……。
 その顔を見て、急に心臓がバクバクとあり得ないくらい大きな音を立てだしたのだ。

「ちょっと、健一郎、なに……? あと、それ! 前! はだけてるから! 見える! ちゃんと着替えてよ!」

 健一郎の肌が見えて、私はどきりとした。

(免疫のない女子になんてもの見せるんだ!)

 思わず健一郎から目をそらす。
 次の瞬間、健一郎が私の顎を掴んで自分の方を向け、私は驚いて固まった。

(まさか……いや、まさか……⁉)

 しかし、とっさに私は自分の唇を自分の手で覆い、目を瞑ったのだ。
< 35 / 227 >

この作品をシェア

pagetop