きみはハリネズミ
《…それでは表彰に移ります。入賞した各クラスの代表者は舞台上に上がってください》



くぐもった泣き声。感涙にむせぶ声。


色んな声が聞こえた。


きっと私たちには見えない、彼らだけの物語がそこにあるんだ。


何年も何十年も、この体育館には思い出が積もっている。


「なこ」


尋が笑っていた。


「あんたが行きな」


「え…」


文化祭実行委員は私じゃない。


私が出たら…


「みんな高坂しかないって思ってる」


前川くんが真っ直ぐに私を見つめる。


みんなが私の名前を呼んだ。


「なこちゃん」


「高坂さん」


「高坂」


「高坂ちゃん」









「なこ」


とん。


そっと背中を押されて振り返ると、茅ヶ崎くんが「行ってきな」と穏やかに笑った。


「………っ」


一度引っ込んだはずの涙が視界を覆った。


私、線の内側にいるんだ。


どうしようもなく怯えて、震えて、自分を守るために引いた線の内側に。


ずっと触れたかった。


触れられなかった。


でももう、この体に棘はない。


「…行って、くるね」


私は口角を上げて、ゆっくりと一歩を踏み出した。


階段を登って、スポットライトに照らされた舞台の上を歩く。


順に表彰が終わって、最後に校長先生と向き合うと、校長先生は小さな声で「おめでとう」と言ってくれた。


《審査員特別賞3組。貴クラスは第52回実泉高校総合文化祭において、優秀な成績を収められました。よってここにその栄光を称えこれを賞します》


ピン、と張った賞状を両手で受け取る。


私はその賞状を客席にいるみんなに掲げた。


「なこ!」


沸き立つ拍手喝采の中、茅ヶ崎くんの声が聞こえた。






舞台から見えた景色は、






色鮮やかで、






綺麗で、






私はこの景色を一生忘れないと思った。
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