無邪気な彼女の恋模様
電話を切ってしばらくすると、本当に波多野さんが現れた。
私を見つけると、片手をあげて颯爽と歩いてくる。

「波多野さん、どうしよう。木村さんにお金も払わずにお店を飛び出して来ちゃったんです。」

焦る私に、波多野さんは頭をポンポンとしてくれる。

「そんなこと気にしなくていい。それより、飛び出してきたってお前、木村に何された?」

波多野さんが眉間にシワを寄せる。
とたんに、先程のことが思い起こされて私は頬が熱くなった。
だけどそんなこと、波多野さんに言えるわけがない。
キスされそうになった、だなんて。

「何もされてないですよ。」

「ふーん?何もないのに飛び出して来たんだ?」

「うっ…。」

じとりと疑いの眼差しを向けられ、私はタジタジになる。
だけどさぁ、言えないでしょ。
言えないってば。

「まあいいや。俺腹減ってるし、飯付き合えよ。」

黙りこくる私をズルズル引きずるように、波多野さんは駅前の大衆居酒屋に連れ込んだ。
無理やり感半端ないのに全然嫌じゃなくて、むしろ嬉しいなんて思ってしまうなんて、ほんと私ったら波多野さんのこと好きなんだなーって再認識してしまった。

彼女さん、ごめんなさい。
一応謝っておきます。
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