クールな婚約者との恋愛攻防戦
どうせ結婚するならどんな人が来ても同じかと思い、事前にいただいていた写真にもプロフィールにも、何も目を通してこなかった。


まあ、そのことがここへ来るまでの車の中で母にバレ、それはこっ酷く怒られたのだけれどーー


出来れば、年齢は一回り以上は離れていない人がいいなあ。
顔は、こだわらないけれど、欲を言えばかっこいい人の方が勿論いい。

まあ、政略結婚のお見合いで、そんな都合良くいかないよね、と自分の願望をさっさと諦めた。



すると、先頭を歩いていた料亭の女将さんが、足を止めて襖の前に膝から座り、慣れた所作で襖を開けた。


この部屋の向こうに、高原さんがーー私の結婚相手が待っているようだ。



「ごめんね、待たせてしまったかな?」

そう言って、まず最初に部屋に入っていく父の後ろから、私と母も続いた。

広い和室の真ん中に置かれた黒塗りの長テーブルを挟んだ向かい側に、高原さんご一家がいらっしゃった。


父の後ろから、チラッと樹さんの顔を見ると。



「……ああ、良かった! 年齢が近そうで、しかもかっこいい人だ!」


ここでも、思ったことがそのまま口から飛び出た。

その直後、隣にいた母が慌てだし、私の口元を自分の右手でガバッと覆う。何をする。化粧が崩れてしまう。


「す、すみません失礼なことを言ってしまいまして! 悪い子じゃないんですよ!」

ほほほほ……と笑いながらも相当怒っているのか、私の口を覆う手に力が入っている。

そんな母は、高原さん一家に何度も頭を下げるけれど、


「あら、いいんですよ。何だかお陰で、緊張してた空気が解れました」

高原さんのお母様は、特に怒っている様子もなくそのように返答してくれた。
母は、そこでようやく私の口元を解放してくれたのだった。
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