ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「……利用価値がなければ、私も、自由を奪われるの?」


あ。

余計なこと、言っちゃった。


やばい?



内心ドキドキしてることを悟られないように、敢えてティガに強い視線を向けた。



ティガの銀色の瞳に光が揺れた。


感情が読み取れない。

逆に、鏡のように、自分の虚勢が映っているような気がしてくる。




しばしの沈黙のあと、ティガは口元を緩めた。

「まいらは、イザヤどのの庇護下にあるではありませんか。」



……あ……やっぱり、ティガって……タヌキだ。

そのイザヤの立場が危うくなることには触れないんだ。

怖いな。


でも、それならそれで、いい。

腹を括ろう。



いつか、……敵に回るかもしれない。


ティガだけじゃない。

シーシアも、リタも、ドラコも。



イザヤだけ。

私には、イザヤだけ。



ゴソゴソと、鳥の伊邪耶が顔を出した。

「イザヤ、カシコイ、イザヤ、カワイイ。」


そうね。

伊邪耶も、いつも一緒ね。



イザヤと伊邪耶。

私が、しっかりして、守らなきゃ。



私はそっと鳥の伊邪耶をふところから出して、上に掲げた。


伊邪耶は降りしきるヴィシュナの花びらに興奮したらしく、バタバタと羽ばたいた。


「イザヤ、トンダ……イザヤ、オチタ……」


……そうして、花びらと共に伊邪耶は、へちゃりと落ちてしまった。




「大丈夫ですか?」

私だけではなく、ティガも駆け寄って来た。





伊邪耶は、羽根を中途半端に広げたまま、ずりずりと這ってから、ようやく自分の足で立った。


未熟な指でも、不自由な足でも、再び桜の花びらを追う伊邪耶。



自然と涙がこみ上げてきた。



「……大丈夫じゃないと思う。でも、諦めない。自分で、何とかする……。」

意地を張っているつもりはなかったけれど、私はそう呟いた。






*******************************************************************

第4章「花散るとき恋に我死ぬ」が終了しました。
あと3章分、がんばります。
引き続き、お楽しみくださいませ。

感想などいただけますと、励みになります。
よろしくお願いいたします。
< 154 / 279 >

この作品をシェア

pagetop