ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「イザヤ、カワイイ。イザヤ、カシコイ。イザヤ、オチタ。」


かつて壊れたラジオのように、ガーガーピーピークチュクチュと変な雑音をさえずっていた青い鳥が言葉を覚えた。


もちろん意味はわかってないだろうけど、お母さんの優しい声と、お父さんの低い声、そして私の心配そうな高い声をちゃんと使い分けてることに、いつもながら感心する。



「すごい!伊邪耶(いざや)、すごい!……あ、落ちた。」


褒められて得意そうに目を細めた青い鳥は、生来の脚弱症で指が短く劣化し、爪は全くない。

羽根も発達しなかったらしく、翼も尾羽根も短い伊邪耶は、飛ぶことも着地することも下手くそだ。


でもうちに来た当初は、足で歩くこともできなくて……。

ヒナの頃の伊邪耶を思い出すと、泣きそうになる。

胴体とくちばしで、ずりずりと這っていたっけ。


正直なところ、伊邪耶がまともに成鳥になれると思ってなかった。



「いざや。大丈夫?おいでおいで。」


ぺちゃっと半分羽根を広げたまま床に落ちた青い鳥に手を差し伸べる。


伊邪耶は、ちょこちょこと不器用に歩いて私の手に乗った。



かわいい、かわいい、伊邪耶。


私は、手の中に伊邪耶のぬくもりを感じてたまらない愛しさを覚えた。




……お父さんがお母さんに抱く気持ちは、こんな感じなのかな。


娘の私の目から見てもカッコいい、男として完璧なお父さんは、あまり美人ではない家事も苦手なお母さんにべた惚れだ。


……そして、私の初恋、……てゆーか、現在進行形で大好きな孝義くんも、今の私の年齢の頃、お母さんのことが好きだったという。


納得いかんわぁ。






(まいら)。いざやをおだててあんまり飛ばさんといてね。上手に着地できはらへんねんから。知らんところでパニックしはってもかわいそうやし。」


うちから持ってきた小難しそうな古い書物を読んでいたお母さんが、やおら顔を上げて、そう言ってきた。


「わかってるわ。でもずっと車の中でおとなしくしてたんやもん。いざやかて、飛びたいんやろ。」

「こら。お母さんにそんな言葉遣い、あかん。『押忍(おす)』か『はい』か『いいえ』か『うん』ぐらいにしとき。……船、来たって。」


ちょうどロビーから戻ってきたお父さんが、そう私をたしなめた。


……押忍って……孝義くんじゃあるまいし……。
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