ここはディストピア あなたは亡国の騎士 わたしは愛玩物
「だろうな。一昨日も私はココでこのアルファを弾いていた。母が好きだったのでな。すると、甘い香りが漂ってきて、そなたが倒れていた。」

イザヤはそう言って、弓で中央の棺桶型の墓石を指した。



「へ?私?棺桶の上に?」

驚いてそう尋ねると、イザヤはふっと笑った。

「ああ。先祖が蘇ったのかと思ったぞ。」


……まあ、棺桶だもんね。

てか!


「じゃあ私、あの、イザヤの館のあのお部屋に現れたんじゃなかったの?ココ?」


私は立ち上がって、棺桶型の墓石に近づいた。


ココ?

何でまたココに。



「ああ。その上だ。揺さぶっても、声をかけても目覚めないが、心音と呼吸は力強かったので、館に連れて帰った。」

イザヤはそう言って再び膝を折りお母さまに祈ってから、顔を上げた。

「もしかしたら、母上のお導きで、女神がそなたを授けたのかもしれない。」


ドキッとした。


どういう意味?

運命の出逢いってこと?



私は、イザヤの次の言葉を待った。

けどイザヤは、それ以上は言わなかった。


ただ、すっと私のほうに手を差し伸べた。



私は、ふらふらと引き寄せられるように、その手に自分の手を預けた。


イザヤは、私の手の甲にそっと唇を押し付けた。

びっくりしすぎて、心音が跳ね上がった。



「ほら。甘い香りがしないか?」

イザヤ自身も不思議そう私にそう確認した。


確かにさっきから甘い香りがする気がしていたけどさ。


「する。でも、ずっとじゃない。」


そう答えると、イザヤも同意してうなずいた。


「いくつかのファクターの偶然の作用でそなたはこの世界に参ったらしい。再現すれば帰れるかもしれないと思ったのだが、そううまくはいかないようだ。」


イザヤの言葉にハッとした。

私を連れてきてくれたのは、元の世界へ帰れるかどうか試してくれたんだ。


心が、じんわりと温かくなる……。

周囲に、甘い香りが濃く充満した。 


「ありがとう。」

どう言えば伝わるのかわからず、私はただそうお礼を言った。


イザヤは、鳥の伊邪耶に向ける笑顔を、やっと私にもくれた。

「よい。そなたを悪いようにはしない。安心していろ。」



……具体的にどんな処遇を受けるのかわからないまま、私はうなずいた。


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