策士な課長と秘めてる彼女
「あのー、陽生さん。カメラとノート、持ってきて下さいましたか?」

コーヒーとお茶菓子を陽生に差し出しながら、早々に日葵は切り出した。

フフッと不敵な笑みを浮かべる陽生は、コーヒーに手をつけるも何も言わない。

「か、課長?」

ギロリと睨む陽生だが、日葵も怯むわけにはいかない。

「昨日は少し飲み過ぎて、うっかり隙を見せてしまいましたが、普段はこういうことはないんです。それに、カメラもノートも私の大事なパートナーで仕事道具です。お願いします。・・・返して・・・もらえませんか?」

お辞儀をした姿勢から、上目遣いで陽生を見る日葵は可愛らしさで溢れている。

「・・・いや、俺は上司として、日葵の隙がありすぎるこの現状を危惧しているんだ。こんなことで、日葵は仕事も生活もちゃんとできるのか?」

「だ、大丈夫です。課長の取材内容もきちんとまとめて見せますし、お酒は控えます。お願いですから、広報の初仕事を私から取り上げないで下さい。そのためなら何でもしますから」

「何でも?」

「はい」

「二言はないな?」

「はい」

日葵の返事を聞いた陽生の表情がやけに明るくて黒い。

嫌な予感に、日葵の胸がざわめく。

陽生がPHSより少し小さめな何かをジーンズのポケットから取り出す。

『何でも?』

『はい』

『二言はないな』

『はい』

先程の会話が再生される。

何故陽生がそんなことをするのか、訳がわからずに青ざめる日葵に

「いいだろう。俺もしばらくここに住んで、日葵の監督をする」

と陽生が告げた。

「そうと決まれば荷物を運ぼう。ああ、日葵のカメラとノートも返そうな」

コーヒーを飲み干した陽生は、日葵に背を向けて、玄関の方へ歩き始めていた。

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