策士な課長と秘めてる彼女

先鋒

゛真島課長゛ではなく、゛陽生゛との共同生活は思っていたよりも快適だった。

仕事のできる゛真島課長゛は毎日定時に出勤し、定時に仕事を切り上げる。

終業時間には、広報企画部の前で日葵を待ち伏せし、自前のワンボックスカーに彼女を乗せて帰っていく。

この3日で、

゛蒼井日葵は束縛彼氏と別れ、更なる束縛彼氏の真島課長と付き合い始めた゛

と、今度は別の不本意な噂が立ち始めた。

陽生は、通勤のついでに、月水金の三日間、柊の通う警察犬訓練所に送迎をしてくれている。

訓練所から蒼井家までは、徒歩で20分。

行き帰りがとても良い運動になっていたのだが、陽生の車による送り迎えのお陰で、朝晩の貴重な時間を睡眠に充てることができるようになった。

「お帰り、日葵ちゃん」

「お世話になってます。高梨さん」

「今日も・・・彼氏と一緒なんだね」

「えっと、彼氏では、な・・・」

「こんばんは。柊を迎えに来ました」

高梨の゛彼氏゛という言葉に反論しようとした日葵を畳み込むように、陽生が言葉を重ねた。

高梨長門(たかなしながと)63歳。

週に三回、無料で柊を預かり訓練をつけてくれる、日葵にとってはありがたい師匠だ。

高梨警察犬訓練所は、日葵の祖父が運営していた蒼井警察犬訓練所と同等の施設で、高梨は日葵の祖父の弟子ともいえる。

そんな高梨の横でお利口にお座りをしている柊は、高梨と陽生を交互に見上げて首をかしげた。

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