策士な課長と秘めてる彼女
高速に乗ってひたすら走ること一時間。

国道に降りて約30分。

日葵の母の実家は、蒼井家のあるH県の隣にあった。

どちらも県境にあるため、車での移動時間としては比較的短い。

「せっかくの週末なのに、フレンチトーストのために潰しちゃってもいいんですか?」

助手席から遠慮がちに尋ねる日葵に、

「何を言ってる。日葵の美味しいフレンチトーストの元祖を食べられる貴重な機会だ。これを逃したら2度と食べられないかも知れないだろ?」

確かに、認知症の進んできた祖母がいつまで料理ができるかはわからない。

そもそも今の状態も、こうして離れて暮らしている現状では日葵も正確に把握できていないのだ。

日葵も、祖母が日葵を覚えてくれているうちにできるだけ会っておきたいと思っていたから好都合だ。

「私も免許取ろうかな・・・」

大型犬と暮らしているのに、車を持っていないのは不便だと、日葵は今更ながらに気がついた。

現状になんの不満もなく、訓練所や仕事場への行き来も徒歩で出来る現状になんの疑問も抱いていなかった。

日葵はそんな自分のボンヤリぶりを客観的に評価して呆れ返っていた。

「運転免許を取るには時間と労力がいる。今の日葵にそんな余裕があるのか?」

陽生の言葉も一理ある。

柊の存在が日葵の行動を制限しているのは否めないが、それを言い訳にはしたくない。

考え込む日葵に

「これからは俺がお前の足になる。この車だってそのために買ったんだ。遠慮なく俺に頼れ」

と陽生が平然と言った。

確かにこのワンボックスカー、皮の匂いがしてボディがピカピカして新車っぽいなとは思っていたが、本当に新車だったとは・・・。

日葵は驚いて言葉を失った。

柊のゲージだけでなく、新車の購入。

陽生の無謀な買い物に、日葵は頭を抱えるのだった。


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