このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~


「それで悪いんだけど、急遽決まったタイアップで、向こうの社長、今日の午後しか都合がつかないらしいんだ。三時に顔合わせの約束を取り付けてあるから、ハルナプロに向かってくれる?」

「…!わ、分かりました!」


どくどく、と騒ぎ出す胸。

不穏な胸騒ぎを感じながら、私は手渡されたコスメブランドの広告を、ぎゅっ、と、握りしめたのだった。


**


「ーー高いビル…。何階まであるんだろう…?」


キラリ、と太陽の光を反射させるガラス窓。都内の高層ビルに、ハルナプロの事務所はあった。

自分の名刺と身だしなみを確認し、私はコツコツとヒールを鳴らして自動ドアへと進む。受付にはカードキーがあり、社員らは普段カードをスキャンして出社しているらしい。…さすが天下のハルナグループ。最先端のセキュリティーだ。


『おはようございます。本日はどのようなご用件でしょう?』

「いつもお世話になっております。わたくし、“榛名社長”と三時の約束で参りました、広告代理店“ミゼ”の逢坂と申します。」

『逢坂さま、ですね。お待ちしておりました。係の者が参りますので、少々お待ちいただけますか。』


やがて、にこやかに登場した事務員らしき女性。

応接室に通され、そわそわと下座に掛ける。

質の良いワインレッドのソファに、重厚感のあるブラウンのテーブル。部屋を見渡すと、観葉植物とセンスの良い調度品が並んでいた。社長の趣味だろうか。

校長室のように、歴代の社長の写真が並んでいる、というわけではないらしい。


(これは“仕事”。分かってるけど…。榛名さんの“お兄さん”って、どんな人なんだろう。)

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