このお見合い、謹んでお断り申し上げます~旦那様はエリート御曹司~
「律さん、お待たせしました…!」
思わずタタタ…、と駆け寄ると、ちらり、と視線を上げた彼は、私を見た途端ふわりと微笑む。
うわ、怖いくらいイケメン。オーラが眩しい。この人、本当に三次元の人?
律さんは、ネイビーのシャツに黒いパンツを合わせたシックな装い。ネクタイをしていない私服の彼の姿に、今さら“プライベート”なのだと胸が騒ぐ。
「走らなくていい。誕生日おめでとう。」
「っ、ありがとうございます…!」
「可愛いな。今日は髪を巻いてるのか?」
「えっ?!…はい。時間がありましたし、で、デートですから…!」
「はは…っ、百合からその言葉が聞けるとは思わなかった。」
くすくすと笑う律さんは、ガチャ、と助手席のドアを開けて座席を引いた。
「そうだな。今日はデートだ。…ん、どうぞ?」
「ありがとうございます。」
以前も実家での食事会の時に車で送ってもらったことはあるが、今日はあの日とは少し違う。運転席の彼との距離も、何となく近い気がして頬が緩んだ。
バタン、と乗り込んでシートベルトに手をかけた彼は、こちらをちらり、と見て言葉を続ける。
「そうだ、百合。開演は十八時からなんだが、その前に少し寄り道していいか?」
「?はい。私は大丈夫ですが…。どこへ行くんですか?」
「ん?まぁ、用があってな。気にするな。」
何となくはぐらかしたような彼に首を傾げつつ、私は体を包むような背もたれに体重を預けた。そして、やがてサイドブレーキに手をかけた彼は、そっ、とアクセルを踏み込んだのだった。