こんな気持ちがあることを私は知らなかった。
そんな私の気持ちなど知らない上司は私を神田侑真の教育係に任命した。
単純に楽しい嬉しいという気持ちはどうしても持ってしまう。
神田侑真は本当にいい子だったから。
私より2つ年下で例えるなら犬のようなそんな可愛い子だった。
仕事には本当に一生懸命で、褒めると尻尾を振ってるのが見えるんじゃないかってくらい可愛く喜んで。
一定の距離を保つのに必死だった。
私とこの子は『上司と部下』ただそれだけ。
何度も何度も言い聞かせた。
違う。私が好きなのは秋。秋だけが私を幸せにしてくれる。
毎日、毎日、自分にそう言い聞かせた。


「麻子、最近すごく疲れてるように見えるけど大丈夫?」


ハッとした。秋にそんなことを言わせている自分が情けなくてどうしようもなかった。
秋はこんなにも私のことを愛してくれているのに。
なのにどうして嫌なところしか目につかなくなっているんだろう。
心配してくれているその言葉すら、鬱陶しいと感じてしまっている私がいた。


「大丈夫よ。最近新人の子が入ってきてね。その子の指導のことで少し疲れているのかも。」

「あんまり頑張りすぎないようにね。今日は俺がご飯作るから、ゆっくりしてて。」

「秋だって仕事で疲れてるのに悪いわよ。大丈夫だから心配しないで。」


ほら、秋は優しい。
こんな最低な私を気にかけてくれてる。
私のことを甘やかしたいってそんな風に言ってくれる。

でも、それならどうして。
どうして私を抱いてくれないの?
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