嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
しばらく大人しく待っていて、思った。
……すでに二分経過しちゃってないですか?


「ああ、すまない。待たせたね」
「いえ」


ようやく通話が終わったので、私は薫社長に近づいた。


「あの、いろいろ考えたんですけど、私……」


気ばかりが焦って前置きなしで話し始める。


「やっぱり、その……」


両手を揉みほぐすように握っていると、正面から呆れたような溜め息が聞こえてきた。


「嘘を吐くのは心苦しいなんて理由でやっぱりやめます、は無しだよ」
「え!」


見透かされてる!

私の周りにいるのはみんなエスパーなんじゃ……?
いや、私が分かりやすいだけかも……。


「今更無理です、なんて困る。君だって昨日、俺を利用する気になったんだろ?」
「そ、それは……っ」


薫社長が怖いことを言うから、と言いたいところだが、二の句が継げなかった。

その通りだからだ。


「週末、引っ越しの手配をしておいたから」
「……は?」


急な展開に、目も口もぽかんと大きく開けざるを得ない。


「気になるだろうから話しておくが、香山は退職の手続きをしておいたし、借金の方は昨夜遅くに長瀬に返済させた」
「え⁉︎」


も、もう……⁉︎
昨日の夜ってことは、お母さんにあの催促の電話がかかってきたあとに?


「悪いがこれから取引先との会議だ。あとのことは長瀬に聞いてくれ」


石化した私に構わずに、薫社長は踵を返すとデスクの上の書類を整理し始めた。
テキパキと動き、もう私の姿なんて目の端くれにも入っていない様子だ。
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