嫁入り契約~御曹司は新妻を独占したい~
「まあ、金で解決せんでも、もう少しお酌に付き合ってくれたら大目に見てやってもよい」
「えっ?」


そして次にお客様の手が移動する様を見て、私は目を見開く。


「店の者には私から言っておく。君には特別な仕事をしてもらっている、と」


……ちょっと待って、これは……セクハラ?

相手は確実に私の胸を触っている。
藍色の着物越しに、手のひらの感触が伝う。


「お、お客様……っ」


私は俯きながら、絞り出すような声を出した。

こ、こういうとき、どう対応すればいいの……?

大声で片山さんを呼ぼうか、でもそんなことしたら、元はと言えば私が悪いんだし、このVIP客の機嫌をもっと損ねるかもしれない。

動揺ポイントが多すぎて、うまく頭が機能しない。
焦りばかりが募ったとき、年配客の手がもぞもぞと着物の中に侵入しそうになって、私はあまりの気持ち悪さに両目をキツく閉じた。


「や、やめてくだっ……」
「木塚所長、場をわきまえたらどうです?」


それまで黙ってことの成り行きを見ていた薫社長が、私の言葉を遮った。


「ここは、店員さんが付きっきりでお酌をしてくれるお店ではありません。ましてやわざとお酒を零してお近づきになろうだなんて、悪趣味ですよ」
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