番外編 溺愛旦那様と甘くて危険な新婚生活を



 その後、互いに準備をして椋の車でラベンダー畑へと向かった。
 車内では普段通りに会話をしていたつもりだったけれど、どことなく椋がいつもより元気がなく、口数も少ないように花霞は感じていた。


 あの事件以来、椋の不眠症はほとんどなくなっていた。花霞が怪我し入院した時はほとんど寝ていないようだったけれど、退院し生活が落ち着いてきた頃から椋は花霞と同じように夜に寝て、朝方起きるという普通の生活を過ごしていた。睡眠時間が短かったり、途中で起きてしまう事もあったようだが、結婚式後には熟睡出来ている事が多かった。
 朝起きても、ぐっすりと眠っている椋の姿を見られるようになり、花霞は安心していた。
 そんな中でも、寝室にはラベンダーの香りがほんのりと漂っている。寝る少し前にアロマオイルを専用のライトに垂らして、寝るときはその香りで包まれて眠るようになっていた。
 花霞が退院後は、ラベンダーの香りを感じると椋が事件を思い出してしまうと思い、止めていた。けれど、懐かしさからこっそりラベンダーの香りのオイルの瓶を見ていたのを椋に目撃されてしまい、「使おうか。俺も、その香り好きだから」と言ってくれたのだった。


 「ラベンダーが満開の時期に行けて嬉しいね」
 「そうだね。アロマとは少し違った香りだったから、俺もよく覚えているよ」
 「うん。楽しみだね」
 「………そうだね」


 花霞はなるべく自分で話しをしながらラベンダー畑に向かう時間を過ごした。
 椋はきっと緊張しているのだろう。そう思って、少し気が紛れるようにと思ったのだ。

 平日の昼過ぎとあって道は空いており、予定より早い時間にラベンダー畑に到着した。
 花霞は彼に近づいて、自分から手を繋いだ。すると、少しハッとした表情で花霞を見た後に、少し固い表情のまま「行こうか」と、手を握りかえしてくれた。その手は、夏だというのに、少しだけ冷たかった。


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