若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
まわりに高い建物がないせいで、陽当たりもいいし見晴らしもいい。このマンションが一体いくらなのか、向葵にはもちろん検討もつかない。

窓を離れ、部屋の中をひと通り見て回った向葵は、お掃除ロボットを見つけた。
近寄って屈むと「これからよろしくね」と挨拶をする。
床掃除はしなくていいんだと、ちょっとホッとした。ショールームのように綺麗な部屋を汚すには忍びない。

『足りない物が、あればこれで買って』
そう言って渡されたクレジットカードは、生まれて初めて実物を目にしたブラックカード。彼の話では、カード会社のコンシェルジュがなんでも相談にのってくれるらしい。

でも、足りない物など何もありそうもなかった。

家具も電気製品も必要以上の物まで揃っているし、キッチンには基本の調味料があるという細やかな心遣いまでされている。そもそも向葵は最低限度、極端に言えば、生きるために必要な物だけで満足できる、安上がりな人間なのだ。
この部屋にはなんでもあり過ぎて、むしろどうしていいのかわからない。
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