若奥さまと、秘密のダーリン +ep2(7/26)
このビルは壁の構造上、外からは見えないが窓辺に立てば外の様子がよく見える。
会議室は二階だ。歩いてくる佳織の顔ははっきりと見えたに違いなかった。

それに矢神は一流企業の創業者一族の御曹司の第一秘書だ。人の気持ちが読めなければとても務まる仕事ではない。

「すみませんっ!」
佳織は慌てて立ち上がって頭を下げた。

「別にいいですよ。座ってください。で? ため息の理由はなんなんですか?」

しょんぼりと消え入るような気分で椅子に腰を下ろした佳織は、まな板の鯉らしく正直に言うことにした。

「『贅沢を覚えてしまう自分が怖いんです』彼女がそう言ったんです。契約が切れたら前の生活に戻らなきゃいけないからって。矢神さん、こんなことを聞いても仕方がないってわかっています。でも、月井さんは、どう思っているんですか?
 あの子との未来について」
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