バッドジンクス×シュガーラバー
「は、はい。よろしくお願いします」

「だいじょーぶよぉ、そんな固くならなくても。ウチは面倒見いい人多いから、きっとすぐ慣れるわ」

「そ、そうなんですね……」



カチコチに緊張したまま神妙な顔でうなずく。

そんな私と裏腹に、目じりを下げた浅村さんは楽しげだ。



「ふふ。小糸さん、素直な感じでかわい~」

「おいおい、若い子堂々とナンパすんなよ」



浅村さんとは反対隣から突然割り込んできた男性の声に、ビクッと肩がはねた。

その人と顔を合わせるため、浅村さんがひょいっと私を避けるように背もたれを倒す。



「うるっさいなー牧野(まきの)くん。小糸さん、この右の奴は牧野くんね。彼もスイーツチームで、ついでに私と同じ7年目。以上」

「ちょっ、俺の扱い雑すぎじゃない?!」

「別にいつも通りでしょ?」

「いやいや……っん? あ~まあ、たしかにそうだけどさあ!」



このふたりは、いつもこんな調子なのだろうか。わいわい言い合った後、牧野さんがニッコリ私に笑いかけてきた。



「どーも、牧野数仁(かずひと)です! いやー、隣に若くてカワイイ女の子が来てうれしいなー」

「ちょっとなにそれ私が隣じゃ不満だったってぇことですか??」

「いでででで肩のツボ押すなよいでででで!!」

「あ……あはは……」



騒がしいふたりのやり取りに苦く笑って、私は気づかれないよう少しだけ、牧野さんから距離をとった。

ひざの上に置いた両手を、キュッと握りしめる。


……4月は、いつも憂鬱だ。

こんなふうに、新たに誰かと──……“男の人”と知り合う機会が、増えるから。
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