俺様御曹司はウブな花嫁を逃がさない

『それで、せっかく勇気を出して飛び出したので、いつもはできないことをしたいんですけど、できることが少なくて』

『何をしたいんだ?』

『友達と遅い時間までカラオケに行ったり、ファミレスでドリンクバーお替りしまくったり、彼氏とぶらぶらデートしたり……とにかく、数えきれないくらいあるんです』


指を折りながら説明する少女の願いは、高校生であれば当たり前のものだった。

少し同情しながらも、『デートならすればいいじゃないか』と告げると、少女は化粧っけのない頬を桃色に染める。


『それが、彼氏というものがいないので』

『ああ……根本的に無理なのか。じゃあ友達に連絡してカラオケは?』

『私、スマホを持っていないので、誰とも連絡先の交換をしていなくて』

『今時珍しい高校生だな。それも父親から許可されてないのか』

『はい……』


少女の父親の厳しさは陽の想像以上で、それは確かに窮屈だったろうと家を飛び出す気持ちも理解できた。

陽の父も多少口うるさくはあるが、スマホの所持は小学校を卒業するよりも前に許された記憶がある。

高校生で携帯を持たせてもらえないのは交友関係にも支障をきたしそうだ。

かわいそうだという憐れみの気持ちが陽の中に生まれる。

しかし、偶然出会っただけの自分には何の関係もない少女のことだ。

本来なら、大変だなと声をかけ、ここにいたらまたナンパされるから気をつけろと忠告を残して去ればいい。

だのに。


『……なら、俺が付き合ってやろうか』


気付けば陽はそう口にしていた。
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