基準値きみのキングダム


急に左隣から声がして、びっくりした。


素っ頓狂な声を上げた私に、声をかけてきた張本人、近衛くんが「べつに、驚かそうとしてないんだけど」と眉をひそめる。


そういえば、さっきからベースの音がしないと思ったら。




「弁当、それ手作り?」




近衛くんが、ずいと身を乗り出して私のお弁当箱を覗きこんでくる。

そうだよ、と頷く。




「へー、器用なんだ」

「別に……普通」

「でも、毎朝作ってんでしょ」

「日課みたいなものだから。慣れたら誰だってこれくらいさくさく作れると思うし」



近衛くんは虚をつかれたように、ぱちぱちと瞬きをして。


それから作戦変更、とでも言わんばかりに表情をがらりと変える。




「食べてみたいなー」

「え?」

「食べさせてよ」




本気で言っているのかな。


でも、チョコチップメロンパンしか食べていないみたいだし、本当にお腹がすいているのかもしれない。



それなら、私のテキトーなおかずでいいなら、全然食べてほしいけれど。


隣の席っていうよしみもあるし、手を差し伸べないのも違うし……。





「じゃあ……どうぞ」





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