基準値きみのキングダム
「なに、俺の話してたの」
いつの間にか、女の子の輪のなかから抜け出してきていた深見くんが、私と近衛くんと向かい合う形ですとんと腰を下ろす。
「まあね。他にもいろいろー」
「いろいろ?」
「色々は色々。ね、杏奈ちゃん」
目配せして含み笑いする近衛くんに、また曖昧に頷く。
深見くんは、ぴくりと眉を動かした。
「“杏奈ちゃん” ?」
「ん?」
「……お前いつから森下のこと、名前で呼んでんだよ」
「いつって、最初からだけど」
ぴく、とまた小さく反応した深見くんは、近衛くんから視線を逸らして、今度は私をじっと見つめる。
少し細くなったその瞳は、ちょっと……いや、けっこう、不機嫌、に見える。
「森下」
「……はい」
「なんで、そんな簡単に椋に名前呼ばせてんの。あー、そういや、美沙も名前で呼んでたような気がすんな。今日初めてまともに喋ったわりに?」
ふー……と、何かを堪えるように息を吐き出した深見くん。
ちらりと私に上目づかいで視線を送って、何を言うのかと思えば。
「ずるくない?」