基準値きみのキングダム



「え」

「よく考えれば、メリットあったかも」

「な、なに?」

「森下と話せるじゃん。距離も多少は縮まるじゃん?」

「……っ、な」

「せっかくクラスメイトなんだし、親睦深めとかないと、的な」



……。

や、ほんとに、なんなの、このひと。
親睦深めとかないと……じゃなくて!




「深見くんって」

「うん?」

「発言がチャラくてチャラくてチャラい」




うわあ、またかわいくない発言をしてしまった。
内心落ちこみつつ、でも、これは本音でもある。


『どきっとした』と言えたなら、可愛げのひとつやふたつ、あったかもしれないけれど。




「あー、そうかも、たしかに」

「自覚あるんだ……」

「でも、別に誰にでも言うわけじゃない」

「……え」

「勘違いされたら困るしな」




うげ、と深見くんが眉間にシワを寄せる。

勘違いによるイザコザに悩まされてきたんだろうな、今まで、たくさん。深見くんを好きになる女の子、いつまでも絶えないもんね。



というか、勘違いされたら────ってことは、私のことは。



……勘違いしないとでも思われてるんだろうな。

そうだよね、恋なんて甘い夢を見なさそう、それが “森下杏奈” に定着したイメージだもん。




「……あ、ここ、私の家」

「何階?」

「2階だよ」



そうこうしているうちに、私の家まで到着。

もともとあのスーパーからそんなに距離があるわけではないけれど、なんとなく体感時間がいつもより短かった気が……。



「きょーすけくん、部屋は206!」



京香が深見くんの腕をぐいと引く。

家賃の低さが唯一の魅力のおんぼろアパート、206号室。

それが森下家の質素な住まい。




「森下ってきょうだい、妹ひとり?」

「ううん、もうひとり────」




鍵穴に鍵をさしこんで、ガチャガチャ、と回す。

私が扉を開けるより先、見計らったように内側から扉がひらいた。




「姉ちゃん、京香、おかえり────っと」




ひょこ、と顔を覗かせた学ランの男の子。

中学2年生の弟、奈央が、私のうしろに立つ深見くんを見つけて、目を丸くする。





「……姉ちゃんの、彼氏っすか?」

「奈央! ばか!! ちがうからっ!!!」





< 24 / 262 >

この作品をシェア

pagetop