基準値きみのキングダム



「私が来た時点で、もう食べ終わってたよ。どーせ、またあのチョコチップメロンパンでしょ。よく飽きないよね」

「あー、あの購買のすぐ売り切れるやつな」

「知ってた? 椋ってあれ、女に並ばせてるんだぜ」

「ほんっと近衛くんはぶれないよねー」

「ぶれずにクズ」




言いたい放題だ、なんて思っていると近衛くんがスラップの手を止めて反論する。




「違うって。女の子たちが、自主的に買ってきてくれるだけー」

「その発言に引くわ。椋ってマジで、ベースと女にしか興味ないよな」

「そのせいで成績赤なんでしょ。眼鏡キャラのくせに」

「キャラ言うなよ。視力くそ悪ぃんだからさー」

「え、じゃあ椋の本体は眼鏡ってこと?」




野島くんが、ひょいと近衛くんから眼鏡を奪う。


眼鏡をかけた野島くんが「似合ってる?」と首を傾げると、きゃはは、と笑い声が上がった。



野島くんから眼鏡を奪い返した近衛くんが再びベースを弾き始めると、最初はみんなで大きな円になって座っていたのが、ぽつぽつと途切れて、小さな円に分かれはじめる。




自然に円が増える様子を遠巻きに眺めながら、私はどの円にも入れずじまいのまま、お弁当を黙々と食べ進めた。




ああ、また。


また、私の悪い癖が発動する。

また、私はここで平気な仮面を貼りつけてしまうのだ。






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