売れ残りですが結婚してください
翠はやはり自分の身に起きていることを把握できていなかった。

家族の異様な空気に圧倒されていたのも原因の一つだが、誰よりも真面目で男性に全く免疫のない翠にとって、結婚は無縁のものだと思っていたからだ。

そんな翠に突然降って湧いたような許嫁の存在に頭が処理できなかったのは致し方ない。

なんとも重々しい父親の誕生日会が終わると、翠は誰よりも早く自分の部屋へ行った。

ベッドにちょこんと座り、父に言われたことをゆっくりと思い出す。

曽祖母の富子おばあちゃんとその恋人が果たせなかった結婚を自分が果たす。

(私結婚するんだ……)

事の経緯は理解できた。

だが、どこか他人事のようだ。

それほど実感がわかないのだ。

翠は自分が結婚できないかもしれないと思っていたがそのことを悲観したことはない。

むしろ結婚が全てじゃない。それよりも自分の時間を有意義に使う事の方が楽しいしと思っていた。

もちろん男性恐怖症というわけでもない。

そもそも恋ってなに?というレベルで恋愛脳は未発達なのだ。

それでも富子おばあちゃんの願いを叶えてあげたいという気持ちと、消去法でいったら嫁ぐことができるのは自分しかいないことだけは理解できた。

その時点で、諦めに似た感情が湧く。

黒いベールに包まれたまだ見ぬ未来の夫。

(私を無条件でお嫁さんにするなんて物好きもいるんだ)

翠はベッドに寝転がり大きなため息を吐いた。

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