売れ残りですが結婚してください
理由はまだある。

長尾家が旧家と言われていたのは忠明の父の代ぐらいまでだ。

忠明は3人兄弟の末っ子で一番上の兄は官僚で、次男は建築士。

忠明はというと大手自動車メーカー勤務。

昔は華族だったと言ったところで誰も信じる人はいないだろう。

古川家はというと戦後、古川家の成長は著しく、純一郎の弟が作ったソースが評判になり、それはのちに日本でソースといえば古川と言われるほどになった。

まさに長尾家と古川家が逆転した形になったのだ。

まだ何も知らない翠の結婚相手になる予定の男は、純一郎の弟のひ孫にあたる古川英嗣(ふるかわひでつぐ)だ。

「相手はあの古川のご子息でいずれは社長になろう人。翠にそんな大会社の御曹司の奥さんが務まると思うか?」

忠明の言うことは決して翠が可愛くないから言ったわけではない。

その逆で可愛い我が子だからこそ心配でならないのだ。

しかも断ることができない上に結婚式までの顔合わせもないと言うのだ。

令和の時代にこんなことがあるのかと思うかもしれないが、これは富子と古川家の間で交わされた約束。

それを守らなきゃいけない。

しかもだ、古川英嗣という男は長い間海外で生活していたため長尾家で英嗣を知る者は誰もいない。

噂によれば古川家は代々容姿端麗のイケメンの家系。

英嗣の父で現社長もかなりのイケメンで、度々テレビや雑誌で拝見する。

だからといって息子が必ずイケメンかと言ったらそれはわからない。

とにかく謎が多すぎる上に長尾家から出せる娘は、言い方が少々残念だが売れ残りの次女の翠しかいないのだ。

忠明と冴子はどうしたものかと頭を抱えたのだ。
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