リリカルな恋人たち
加瀬くんは、ほうほうなどと言いながら、物思わしげに頷いた。

すると、スマホを操作し出した知世が、身を乗り出してわたしたちに画面を見せる。


「そのことなんだけど、わたし矢郷シュウのことちょっと調べたんだけどね、加瀬さん……というか矢郷シュウのデビュー作が発売されたのが八月五日らしいんだよね」


知世が映し出したスマホの画面は、矢郷シュウについて詳しく書かれている三角出版のサイトだった。

たしかに、デビュー作の発売日が、八月五日になっている。

なんだ……。
特別な日って、そういう意味……?


「てっきりわたし、過去に丸川さんと良い仲だったのかなって、」
「丸山さんね。担当替えてもらうからね」
「そ、そこまでしなくても……。いろんな大人に迷惑かけるし」
「いいんだ。誰にどう思われたって。友ちゃんにさえ嫌われなきゃ」


クイッと口角を上げる、大人びた表情で笑う加瀬くんは、手と手を繋ぎ合わせ、陶酔したように目を伏せて言った。


「あの頃から、あのままの友が好きだけど。あの頃から、変わったところも好きだよ?」


……へ?

そりゃ、大人になったんだし、成長もしたけれど。変わったとこってどこだろう? って思っていたら、不意打ちで目を開けた加瀬くんとぱちんと目が合ってしまった。


「オトナになった友の、僕にしか見せない姿、とかね」


片眉を器用に上げて、熱のこもった声で囁く。


「おーい、人んちの車でそれ以上いちゃいちゃしないでくれる? 続きは旅館着いてからにしてな」


本意ではないにしろ、わたしたちの日常に慣れてきてしまったのか、謙介は諦めたような覇気のない声で言った。
クスリと可愛らしく笑った知世が、そんな彼に優しい笑顔でペットボトルを差し出す。

スピーカーから大きめの音楽が流れて、道なりに車体が揺れたとき、わたしのほうにグッと体を寄せてきた加瀬くんは、握ったわたしの左手て口元を遮り耳元で小さく囁いた。


「あと、友のなかも、僕の形にぴったりになってるよ」


口をぱかりと開けて絶句するわたしを見て、加瀬くんはいたずらっこみたいににやりと笑った。


「っ……!」


し、心臓に悪いんですけど……!

加瀬くんと一緒だと、ほんとうにもう胸のときめきが汲めども尽きない。

謙介になにを言われるか気が気じゃないわたしは、どくんと高鳴る胸を押さえながら、真っ赤になっているであろう顔をいとおしい加瀬くんの腕に埋めた。


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