マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
「すまない…辛ければ何も言わなくていい」

私は左右に顔を振る。
カミナリが鳴る度に取り乱すところを、高柳さんには何度も見られている。そしてその度に助けてもらっているのだ。訊かれたことに答えないという選択肢はない。

「その日も落雷があったんです………ちょうど、母が…事故に遭ったと知らせを受けた時でした…」

母が亡くなってもう七年になる。
当初のように涙に暮れることは、今はない。

唯一の肉親である母を亡くした私は、自分一人の足で立って生きていかなければならない。いつまでも悲しみに浸っているわけにはいかないのだ。

そう思って母を失った痛みと寂しさに蓋をしてここまで来た。
けれど心の奥底にしまってあるその記憶の蓋を、いつもカミナリが開いてしまう。その度に私は自分の弱さを痛感するのだ。

「警察から連絡を受けて、病院に駆け付けた時には……母はもう……」

どうしても最後は声が震えてしまった。
そんな私を何も言わず高柳さんは抱きしめた。
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