マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
番外編1 バレンタイン♡リトライ

《一》





「えぇっ!まだしてないの!?」

親友の叫びが部屋にこだました。

二月に入ってしばらく経った休日。私は結城家にお邪魔していた。
里帰り出産から自宅に戻ってきたまどかへのお祝いを渡すため、それと生まれたばかりの赤ちゃんに会いに、だ。

「なんで!?付き合って一か月経つよね?一緒に暮らしてるんだよね??」

丸い瞳をくりくりっと動かして私のほうにずいっと顔を突き出したまどかに、思わず後ずさりをしようとしたけれど、胸に抱く存在のためそれを堪えた。生後二か月になるなごみ(・・・)ちゃんが私の腕の中にいるからだ。

ついさっきミルクを飲んだばかりの彼女は、母親の大きな声に反応することもなくすやすやと眠っている。

私が高柳さんと付き合い始めたことを報告すると、まどかは丸い瞳を大きく見開き、口をぽかんと開けたまま固まっていた。そしてしばらくして我に返った彼女に、嵐のような質問攻めにあった。
停電避難の時から遡って説明すると、『どうしてもっと早く相談してくれなかったの!?』と叱り飛ばされ、『リアルタイムで聞きたかった』と悔しがられ、挙句の果てに『何かあったら一番に相談するって誓ったのに~』と半泣きになられてしまい、私はその度に謝ってばかりだった。


ミルクを飲ませる間もげっぷをさせる間もずっとしゃべりっぱなしだったまどかが、しばし沈黙する。そしてじっと考え込むようなそぶりを見せた後、おもむろに口を開いた。

「もしかしてゆっかちゃん……昔の腹いせ?」

「なっ、…わけないでしょっ!」

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