マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~
ソファーに腰を下ろした高柳さんがシュルリとリボンを解き、包みの中の蓋を開ける。
少し間隔をあけて隣に腰を下ろした私は、じっとそれを見つめていた。

「いただきます」

トリュフを一つ摘まんだ彼は、そのままそれを口に入れた。

(ど…どうかしら……大丈夫?)

自分で味見をした時は「大丈夫」だと思ったけれど、高柳さんが美味しいと思ってくれるかは不安だ。

黙ったまま咀嚼していた彼は、指先についたココアパウダーをペロリと舐めながら私に視線を送ってきた。その仕草があまりに扇情的で、ただでさえ忙しい心臓が一段と大きく跳ねた。

「美味いな」

「っ、良かった!」

ホッと肩を撫でおろすと、「もしかして手作りなのか?」と聞かれたので頷く。

「コーヒーの苦みとウィスキーの香りがすごくいい。控えめの甘さで、これならいくらでも食べられそうだ」

言いながらもう一粒摘まんで口に入れる。甘いものがあまり好きではない彼が立て続けに食べてくれていることから、その台詞が嘘ではないのだと分かる。彼からの合格サインに緊張が少し緩んだ。

「チョコを作るのは初めてだったので、美味しくできたか不安で……でも、お口に合って良かった」

つい嬉しくて頬が緩んでしまうのを感じながらそう言うと、高柳さんがかすかに目を見張った。

「初めてなのか?手作りチョコ……」

「はい。それに男性にバレンタインのチョコを渡すのは八年ぶりで……」

「八年ぶり……あ」

それを思い当たった彼に頷く。

「あの時以来……です」

「そうか……」

感慨深げに呟かれて、なんだか恥ずかしくなってしまう。今でもあれは私にとっては恥ずかしい思い出に変わりはないのだ。

「初めての手作りチョコか。嬉しいものだな。本当に美味かった。ありがとう」

高柳さんは、顔をくしゃっとさせた満面の笑みを浮かべた。

一番大好きな笑顔に、きゅぅぅん、と胸の奥が甘く鳴く。

「あ、あのっ…貰ってくださいっ!!」

両手を皿のようにして高柳さんの前に差し出し、頭を下げた。
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