マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

一緒に暮らし始めたばかりのころ、彼女の食生活には驚かされることばかりだった。
本人曰く『体に良い』という枝豆三昧に始まり、“食事”というよりは“つまみ”と言った方が正しいような夕飯。チーカマは美味いが主食にはなり得ないと思うのは俺だけだろうか――
それを指摘すると本人はケロリと『お腹に入れば一緒じゃないですか?』などと言った。


父と離婚した母は、最初こそは実家の祖父母のもとに帰ったが、仕事が落ち着くとすぐに俺と二人で住むアパートを借り、祖父母とは独立した生活を送り始めた。
看護師だった母は俺が中学にあがると日勤だけでなく夜勤にも入るようになり、必然的に俺が家事を請け負うことが増える。そのうち段々と家事は俺の役目となり、決して楽なことではなかったけれどやってみると意外と嫌ではなく、その中でも料理は割と楽しいと思えた。母が俺の料理を喜んでくれたのも大きな要因だと思う。

食材の買い物、素材の相性、組み合わせ方、調味料の使い方――
やり方は幾千通りもあり、そのままでは食べることが出来ない素材が自分の腕一つで美味くも不味くもなる。挑戦や工夫を重ねていくうちに、俺はその魅力にすっかりはまっていった。


“食事に頓着しない彼女に、『〇〇が食べたい』と言わせてみたい”

そう思ったのが、雪華との“模擬結婚生活”を決めた一因かもしれない。

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