マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

『……どうしてそれを俺に?』

『幾見には世話になったからな』

『まるで自分のもののように言うんですね……雪華さんのこと』

眉を寄せ不快感を露わにした幾見は、少し黙ってから「ふぅっ」と短く息をついた。

『でも、矢崎さんのことは気になっていたので、ありがとうございます』

お前に礼を言われる筋合いはない。そう思いながらも黙っていると、それが伝わったのか幾見はまっすぐに俺を見て言った。

『雪華さんが安心出来るならいいんです………統括は、雪華さんを泣かせませんか?』

幾見の、挑むように俺をまっすぐに見据えてくる視線から、一瞬も目を逸らすこと口を開く。

『泣かせない。雪華のことは俺が守る』

『本当ですか?』

『ああ。約束する』

目を合わせたまま頷くと、幾見は『――分かりました』と言い、自分から視線を外した。


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