マリッジライフ・シミュレイション~鉄壁上司は妻を溺愛で溶かしたい~

 エレベーターの中で受け取った紙袋の中を見た。ワイシャツにしてはやけに重いと思っていたら、スポーツドリンクやゼリー飲料、栄養ドリンク、プリンまで入っている。

 よほど心配だったのね、とほほえましく思う半面、これで私の出番がますます遠のいたなと乾いた笑いが漏れる。買い物に出ても買うものがなさそうだ。

 そんなことを考えながら部屋に戻ると、寝室から物音が聞こえてきた。

「滉太さん、起きたの?」

 ドアを少し開けてのぞいてみると、彼がベッドから起き上がろうとしているところだった。
 立ち上がろうとした彼の足もとがふらりとよろめく。

「大丈夫⁉ 無理しないで」

 慌てて駆け寄り横から支えると、つらそうに眉を寄せた彼が私を見た。

「すまない。喉が渇いたからなにか飲もうと思って」
「それならちょうどいいものがあるの」

 滉太さんをベッドに座らせ、持っている紙袋からペットボトルを取り出した。

「ありがとう」

 滉太さんは受け取ったペットボトルを、喉仏を上下させながら一気に煽った。よっぽど喉が渇いていたのだろう。
 昨日の夜から飲まず食わずで眠っていたのだ。できれば水分だけでなくエネルギーのなるものも取ってほしい。

「おかゆ、食べられそう?」

 顔をのぞきこみながら尋ねると、滉太さんが目をしばたたかせた。

「雪華が作ってくれたのか?」
「うん。あ、でも、私は炊飯器のボタンを押しただけから、作ったってほどじゃ」
「食べる」
「え?」
「雪華の作ったおかゆが食べたい」

 心臓が勢いよく跳ねた。
 いつも精悍な瞳を潤ませながらそんなことを言われたら、こっちまで熱が出そうだ。

「すぐに持ってくるね」

 早口で告げ、逃げるようにキッチンへと戻った。
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