蝉彼岸
 浮気相手は一向に病院には訪れない。
 来るわけがないか。いや、来れるわけがない。
 唯月の全てに気づいた私は静かにベットの横に座った。
 残りはもう二ヶ月はないであろう彼に想いを馳せる。
 信じてもらえないことが一番嫌なクセしてあんなことをするなんて、ほんとに優しい人だ。
 浅い呼吸を繰り返す彼は、時折私の名前を朧気に呼んだ。その度に手を握り、彼の唇に私のそれを押し当てた。その後に必ず彼は哀しそうな、幸せそうな顔をした。
 
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