蝉彼岸
 ぽつぽつと降りはじめる雨は窓を静かにノックしている。
「浮気かな」
自分の口からぽつりと零れた言葉を理解するには時間がかかった。彼が浮気をしているだなんて信じたくないから。
 でも気になってしまう。
 好奇心が動いてしまった私。心の中で唯月に謝りながら彼のパソコンを起動させた。
 白い彼岸花のホーム画面は心做しか暗い雰囲気を醸し出していた。
 朝早く会社へ向かった彼が帰ってくる心配はない。
 今頃デスクトップに黙々と向かっているだろう。もし、浮気をしているなら、会社に行くフリをして相手の人とお茶でもしているのかもしれない。
 そんなことを考えてしまう自分に嫌気がさす。
 軽快な音楽と共に起動されたパソコンは検索アプリが開かれたままだった。手始めに検索履歴を見てみることにした。
 そこには食べ歩きの穴場スポットの履歴が多くあった。余命申告される前週に二人で出かけた時のものだろう。
 あの日は久しぶりの快晴だった。あの時は最後のお出かけとは思いもしなかったけど。
 下調べをしてくれていたのだと知り、何故か涙が浮かんできた。疑っている自分が嫌になる。
 雨のノックが止んで、光が差し込んだ気がした。
 彼はあの日のお出かけが最後になると勘づいていたのだろう。唯月は私のことを想ってくれている。
 でも、鞄から女性物のハンカチなどが出てくるのはなんなんだ。それも一度だけではなく何度も出てくるなんて有り得ない。
 疑いの気持ちが下がっていたのにまたぐんぐんと上昇していく。
 徐々にムカついてきた私は徹底的に調べてやろうと、さらに履歴を漁っていった。
 雨は再び激しく降りはじめていた。

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